投稿日 2021.12.23

最終更新日 2021.12.23

行政DXが人々の暮らしを変える!今ある課題の解決に向け実施すべき取り組みとは


2021年9月のデジタル庁発足をきっかけに、行政や自治体においてもDXの波が加速しています。行政のDXは一般企業のDXよりもさらに人々の暮らしと密接な関係にあるため、その取り組み内容を知っておいて損はありません。

そこで今回は、行政や自治体におけるDXの取り組みにスポットを当てて解説していきたいと思います。DXによってどのような変化が起きているのか、確認してきましょう。
 
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「行政DX」とは

まずは、「行政DXとは?」という基本的なところに触れていきたいと思います。なぜ今、行政においてDXの必要性が叫ばれているのでしょうか。

これからの日本を作るためにも急がれるDX

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、2004年にスウェーデンのUmeå大学・Erik Stolterman教授が提唱した概念です。DXの基本の考え方は、デジタルの力を活用しながら人々の暮らしを良い方向へと転換させること。ただITなどの技術を取り入れたり、仕事をやりやすくしたりというだけのものではなく、暮らしのレベルまで考えて改革を起こすことがDXの本質です。

産業界から始まったDXへの取り組みですが、日本ではまだまだ着手できていない企業がほとんど。世界に比べて遅れを取っていることから、経済産業省が発表した「DXレポート」では2025年の崖という問題も提唱されています。

超高齢化社会を迎えようとしている日本は、これから生産年齢の人口が減少の一途を辿ることとなります。当然行政に関わる人々の数も同じ。人口減少による税収減から、職員が増員される可能性は極めて低く、早急に手を打たなければいけない現状にあります。

しかしながら、行政や自治体ではまだまだデジタルの力を活用しきれていないのが現実。2018年、経済協力開発機構(OECDが)実施した「オンラインでの行政手続利用率」では、30か国中最下位と、日本のデジタル化の遅れが如実に現れる結果となりました。日本ではまだまだFAXや電話、メールなど効率の悪いコミュニケーションが主流となっており、職員減に対して仕事量は減るどころか増えてしまっているのです。

また行政サービスにおいて、国民が期待するサービスのレベルと実際に提供されるサービスのレベルが乖離していることも、新型コロナウイルスの流行によって明らかになりました。職員が増員できないという現実がある一方で、国民へのサービスの質は向上させなければいけない。このどちらもを両立させるためにも、DXへの取り組みは急務であると言えます。

行政の現状と解決すべき課題

人口減少による職員数の不足など、行政ではさまざまな課題が山積みとなっている状態です。どういった課題に対してDXの取り組みが必要なのかを明確にするためにも、まず行政の現状と課題に目を通しておかなければいけません。

人材不足

先ほどから何度も出てきているように、日本全体での高齢化が進んでいることから、政府においても人材不足の悩みが尽きることはありません。自治体職員の数も、平成6年をピークに減少を続けており、令和2年4月1日時点では当時よりも約52万人減少しているというデータが出ています。

団塊世代の職員の大量退職や市町村合併、人口減少による税収減など、人材不足の要因はまだ山積みの状態。一方でニューノーマルへの対応が求められたり、自然災害が頻発したりと、職員がこなさなければいけない仕事は増え続けています。

生産年齢の人口が減少するということは、公共の担い手も比例してどんどん少なくなっていくということ。いきなり人口を増やすことは不可能であるため、人材不足の課題に対してどのようにテクノロジーを活用するのかが今後の争点となることは言うまでもありません。

根強く残る「紙」・「対面」の文化

民間企業に比べて、行政ではまだまだ「紙」と「対面」の文化が根強く残っています。社会全体においては、“ペーパーレス”や“オンライン”の波が加速しているものの、前例主義である行政ではまだまだ紙を使った対面でのやり取りが主流です。

必要な資料がすべて紙ベースで用意されていることから、コロナ禍におけるテレワークへの移行も進められないというケースが少なくありません。今後は“非接触”・“非対面”が世界的に主流となっていきますが、今までのやり方に重きを置いて紙と対面の文化から抜け出せない以上、行政のDXを進めることは難しいと言えるでしょう。

 
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レガシーシステムへの依存

先ほど、「紙・対面文化から脱却できない」という行政の課題を紹介しましたが、その要因となっているのが他でもないレガシーシステムの存在です。行政における情報システムを使った事務処理は、その多くが決められた法令のもとで運用されています。

ただ、行政の事務処理は団体や自治体によってサービスや行政機能が異なるため、団体や自治体ごとにオリジナルのシステムを導入したり、機能をカスタマイズしたりする必要があったのです。しかしその結果、業務プロセスや手続きにも違いが生じ、行政と民間が連携しづらい状況を生んでしまいました。

この状況は非常に非効率であり、結果的に数少ない職員たちの負担となってしまいかねません。効率化を目指す上でレガシーシステムからの脱却は避けて通れないプロセスですが、新しいシステムへの投資自体を見送りケースも多く、未だ解決の糸口が見えていないのが現状です。

 
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行政のDXに対する取り組み

行政ではさらなるDXの推進が急がれていますが、すでに着手している取り組みがあるのも事実です。行政のDXは、どのような場面でその力が活かされているのでしょうか。代表的なケースを見ていきましょう。

マイナンバーカードの普及

現在、政府を挙げて普及に取り組んでいるマイナンバーカード。2022年度末までに全国民への普及を目指し、現在さまざまな施策が打ち出されています。

マイナンバーカードの普及は、政府のデジタル化を加速させるために大きな意味を持つ取り組みの一つ。将来的にはマイナンバーカードを起点としたさまざまなサービスの誕生が予想されており、人々の暮らしの在り方を大きく変える取り組みであると考えられています。

テレワークの導入

コロナ禍における緊急事態宣言の発令によって、民間企業ではテレワークを導入して新しい働き方を導入したケースが少なくありません。しかし政府や自治体においては、レガシーシステムへの依存や個人情報保護などの観点から、なかなかテレワークに移行できていませんでした。

しかし将来を見据えたとき、テレワークという働き方の選択肢を用意しておくことは、行政・自治体にとってもメリットは大きいもの。そこで、一部の自治体などでは業務プロセスや働く環境の見直しを行い、テレワークの導入を実施しました。

テレワークの実施によって、職員たちにとっての業務の在り方は大きく変化。導入前はテレワークに対して後ろ向きな考えだった職員も、テレワークを実際に経験することでメリットを大きく感じ、DXに対しての意識改革にも直結しています。

 
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行政手続きのオンライン化

役所に出向き、紙を使って対面で行わなければならない行政手続き。しかし、非接触・非対面が求められる今の世の中において、従来のやり方では国民の期待に沿うことができません。

そこで今早急に進められているのが、行政手続きのオンライン化。総務省において実施されたアンケートでも、行政手続きのオンライン化については「24時間365日いつでも利用できる」・「窓口に行かなくていい」・「人と接触しなくていい」など、前向きな意見が集まっています。

行政手続きのオンライン化が進めば、国民にとっての負担も職員にとっての負担も軽減されることとなりますが、利用状況はまだまだ低いのが現実。今後マイナンバーカードの普及とともに行政手続きのオンライン化も進んでいけば、行政関連の手続きはより人々にとって身近で手軽なものとなることでしょう。

行政におけるデジタル技術活用

行政におけるデジタル技術活用

DXを推進する上で欠かせないのが、デジタル技術の活用。行政では、どのようなデジタル技術を活用してDXに取り組んでいるのでしょうか。

AI・RPAを導入して業務プロセスや行政サービスを再構築

DXに取り組む上で活用されるケースの多い、AIやRPA。行政のDXにおいてもこの二つのデジタル技術は活用されており、今後なくてはならない存在となっていくことは言うまでもありません。

AIやRPAは、政府・自治体の情報システムを標準化・共通化するのに欠かせないデジタル技術。人材不足の課題に立ち向かうための新たな業務プロセスの構築にも生かされており、今後もAIやRPAが活躍するシーンは増えていくことでしょう。

 
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チャットボットで問い合わせ対応を自動化

民間企業などでは、導入されているケースも多いチャットボット。チャットボットを導入することでユーザーからの問い合わせ対応を自動化することが可能となり、従業員にかかる負担を減らすことができます。

昨今、政府や自治体においてもチャットボットの活用が始まっており、配信やボイスボットと組み合わせることで、住民からの問い合わせ対応にかかる時間と負担の軽減に役立てられています。自治体によっては、LINEなどSNSを活用するケースも。この度の新型コロナウイルスワクチン接種の予約にも、この技術が活用されました。

普段からスマホを使っている年齢層の人にとっては、手軽に問い合わせができることから双方にとってメリットの大きいデジタル技術活用だと言えます。

クラウドサービスを活用した情報サービスの標準化

これまで、団体や自治体によってそれぞれ異なるシステムを活用してきましたが、DXを推進する上でこれまでのシステムが障害となってしまっていることから、情報サービスの標準化・共通化が求められています。

総務省では、地方自治体のDXに対してクラウドサービスを活用した情報システムの標準化・共通化を提案。情報システムの標準化・共通化は人的な負担だけでなく財政的な負担の軽減にもつながることから、積極的な取り組みが急がれています。

行政のDX事例2選

行政や自治体では、徐々にDXの波が加速しています。すでに成功を収めた事例に目を通していきましょう。

「スマート改革」を実施

三重県では、行政のスマート化を目指し「スマート改革推進課」を設立。デジタル化の中心となる組織を設けることで、県としてのDXに取り組んでいます。

「スマート改革」と呼ばれるこの取り組みは、Smart Government(県庁改革)・Smart Workstyle(官民で実現する新しい働き方)・Smart Solutions(テクノロジー活用による社会課題解決を加速)の三つの項目を中心に推進。デジタル技術を活用するだけでなく、職員たちがデジタルに関する知識を身につけデジタルに対する意識を変えていくことに重きを置いています。

最終的な目標は、住民たちに行政サービスの便利さを感じてもらうこと。そのためにまず、県の仕事に直接従事している職員たちの意識改革を行ったのは、DXの本質を考える上で非常に重要な行動であると言えます。

プレミアム商品券の電子化

国や自治体から発行される、プレミアム商品券。紙で用意されていたプレミアム商品券も、自治体によっては電子化に踏み切っているところがあります。

プレミアム商品券は電子化することで、紙のときとは違うメリットが生まれます。販売時の接触が避けられたり、1円単位で利用できるようになったりと、使う側にとってのメリットは紙の商品券のときよりも大きいと言えるのではないでしょうか。

加盟店や事務局にとっても、集計の手間が大幅に軽減されるなどのメリットが。地域振興に欠かせない存在であるプレミアム商品券の在り方も、今後はどんどん変わっていくことが予想されます。

まとめ

やらなければいけないことが次から次へと押し寄せてくるのが、行政の宿命。だからこそDXに取り組んで、仕事をする人にとってもサービスを利用する人にとっても居心地のいい環境の創生が求められています。

DXの推進によって、これからどのような世の中に変わっていくのか。政府のDXの取り組みに注目しながら、世の中の変化を感じていきましょう。

この記事の監修者

阿部 雅文

阿部 雅文

コンサルタント

北海道大学法学部卒業。新卒でITベンチャー企業入社し、20代で新規事業の事業部長を経験。その後さらなる事業開発の経験を積むために、戦略コンサルティングファームにてスタートアップ企業からエンタープライズ企業のデジタルマーケティングや事業開発におけるコンサルティング業務に従事する。2021年5月にFabeeeにジョイン。DXコンサルタントとして大手メーカーや総合商社などを担当するほか、数多くのクライアントから指名を受け、各社の事業開発を支援中。多忙を極める中でも、丁寧で迅速な対応が顧客から高い評価を得ている。