投稿日 2023.11.14

最終更新日 2023.11.14

化粧品製造業のビジネスモデルの変革を分かりやすく解説

化粧品製造業のビジネスモデルの変革を分かりやすく解説

化粧品産業の課題とニーズの変化

化粧品市場は2013年頃から外国人観光客によるインバウンド需要を獲得し、コロナ前の2019年まで上昇傾向で推移していました。化粧品の国内工場出荷金額は2016年に最高額を更新し、2019年の化粧品出荷額は1兆7600億円に達しました。しかし2020年はコロナ禍での需要減を受けて、2021年は対2019年比で約24.1%減となりました。
 
これは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会環境の変化が、化粧品の需要を減少させた影響だと考えられます。マスクの着用による肌荒れを気にして口元の化粧を控えた、テレワークの普及と共に化粧をしない日が増えたなど、化粧品の消費が減りました。また外出規制や店舗の臨時休業により、実店舗での販売の機会が少なくなりました。そして「爆買い」など売上を牽引していた中国などのインバウンド需要が見込めなくなったことなどです。
 
化粧品メーカーは「マスク着用による肌荒れを防ぐ」「メイクがマスクにつきにくい」といったコロナ禍ならではの切り口で、商品開発を強いられました。観光客は見込めなくても、日本製品に対する人気は根強く、中国からの個人輸入は増えています。コロナの沈静化とともに、口紅などメイク用品の需要が伸びており、国内の化粧品需要も少しずつ回復傾向にあります。
 
しかし化粧品産業は、今後人口減少による国内の需要縮小が予想されています。化粧品出荷単価(化粧品1kg当たりの平均出荷単価)も低下しており、市場全体が低価格化しています。
 
化粧品産業は対面販売で提供される高価格帯・高付加価値のプレステージブランドと、ドラッグストアなどで販売される低価格帯のマスブランドに二分されていました。近年広がりを見せているのが、その中間とも言えるマスプレステージです。悩みに特化した商品や独自の自然成分を配合した商品、年齢・嗜好に一致する商品など、ターゲットの多様化・細分化に対応した「少し高価だけど、値段以上の価値がある」という商品が消費者のニーズを掴んだからです。
 
化粧品は異業種からの参入が多く、国内の化粧品市場は競争が激しい状況です。通信販売会社、食品・飲料メーカーや医薬・化学メーカーなどが、既存事業で培った技術やネットワークを活用して、化粧品事業に参入しています。大手化粧品メーカーでも、成長していくことが難しい業界です。今後は海外市場の開拓が大きな課題となるでしょう。

新規事業戦略における製品革新と市場適応

国内は人口減少傾向とはいえ、シニア層の人口は増加傾向にあります。特に50歳~70歳を狙ったアンチエイジング市場はヒット商品を出し、有望視されています。またジェンダーレス思想の広がりやトレンドに伴い、男性向け化粧品の市場も拡大傾向です。男性向け化粧品の中でも基礎化粧品は、これまでスキンケアをしていなかった中高年層の購入率が上昇しています。
 
これまでの国内大手化粧品メーカーは、ターゲットを設定して商品を開発し、華々しい広告でブランド認知とイメージを高めて、店頭のカウンセリングや販促で購買に結び付けるという手法でした。広告に有名タレントを起用し、消費者に「あこがれ」、「格好良さ」を実現するのが「この化粧品」と意識づけます。大々的に宣伝することにより「この化粧品はメジャーでみんなが使うべき商品」だと認識され、「メジャーなものが良質」と受け入れられていた時代に合ったマーケティング手法でした。
 
しかし現在では、消費者は商品の使用実感やコスパを口コミサイトやSNSで発信できるようになり、消費者は企業の広告より一般消費者の口コミによって、購入を決めるようになっています。「メジャーな商品よりも、私にあった商品を選びたい」というニーズを満たすために、消費者は堅実に購入を検討します。
 
このような市場の変化に、化粧品産業はブランドごと、ターゲットごと、チャネルごとにデータに基づいて仮説と検証を繰り返すデータ重視のマーケティングへシフトしつつあるのです。

デジタル化とテクノロジーの活用

化粧品は、「実際に手にとって感触や香りを試したい」という顧客の思いから、デジタル化が思うようにすすまない分野でした。また、店頭で得た個人情報や購買履歴などがメーカーに共有されない、メーカーがEコマースを強化すると、実店舗の売上減少に影響するという反発など、長年の慣習が、デジタル化推進の足かせとなっていました。各社がデジタル化を進めたのは、コロナ禍で来店者が激減し、来店した顧客にも以前のような接客ができなくなってしまったからです。

オンラインカウンセリング

店舗に行かなくてもカウンセリングができる環境を整えた例です。1対1型、ワークショップ型、ユーザー同士がコミュニケーションする座談会型があります。顧客に合わせた肌の手入れ方法だけでなく、生活習慣のアドバイスなど、きめ細かな接客ができます。実店舗では相談できないという、男性顧客の開拓にもつながっています。

バーチャルメイク

自撮り写真に映像を重ね合わせることができるAR(拡張現実)の技術を利用して、自分に合ったメイクが試せるシステムです。顔のパーツの比率を計算し、メイク方法を提案してくれる機能も好評。男性向け化粧品部門ではメイクをしたことがない、試したくても人目が気になるという男性が多数利用しています。メイクのトータルコーディネイトを提案して、客単価アップも期待できます。

ライブコマース

ライブ配信を行い、チャットを通じて相互コミュニケーションしながら販売する手法です。ブランド別に紹介するだけではなく、テーマや悩みに沿った商品を紹介するライブコマースも登場しています。情報発信をインフルエンサーではなく、開発担当者などの社員が発信することで、顧客の共感を得ているメーカーもあります。

店舗のデジタル化

販売機会の減少に対し、実店舗とバーチャル店舗の両方を展開し、双方向で顧客を獲得できるという強みをもったメーカーが増えています。実店舗に行きたいけれど、販売員に話しかけられるのが苦手な顧客にはバーチャル店舗は便利です。接客を受けたい場合は呼び出しも可能で、消費者が選択できるようになっています。
 
化粧品産業におけるDX戦略のポイントはIT基盤の構築、顧客視点でのブランド構築、 一元化されたデータを活用したビジネスモデルの構築です。十分なIT基盤の実現は開発部とマーケティング部、国内拠点と海外拠点の連携を図り、顧客データを一元管理できるようになります。一元化された顧客の購買情報や肌情報のデータを活用して、メールマガジンやSNSを利用した情報の発信やクーポン券の発行などが可能になります。

販売チャネルの多様化、オムニチャネルとEコマース

国内の化粧品市場をチャネル別に見ると、ドラッグストアは回復の兆しがあるもののコロナ前と比べると約3%減。量販店、化粧品専門店は10%減、百貨店に至っては32%と大きく減少しています。通販チャネルは10年前よりも市場は1.6倍増加し、コロナ禍でも22.5%増と飛躍しました。
 
とはいえ、実店舗での販売や訪問販売の割合は7割程度を占め、Eコマースの比率はまだ低水準です。ネット通信販売などの無店舗販売から始まったEコマースは、オムニチャネルやセレクトショップでの販売へと多様化しています。オムニチャネルとは、複数のチャネルを連携させて、オンラインストアや実店舗、販売・流通と総合的な販売チャネルを構築する手法です。
 
国内市場に対しては、他社に負けない圧倒的な製品を開発してシェアを取っていくか、海外市場の開拓が求められています。いくつかのメーカーはすでに海外市場に進出し、手を打ってきました。
 
中国人の肌質を徹底的に追求して開発し、地道に販路を拡大した中国専用ブランドを展開した大手メーカーをはじめ、各社が東南アジア諸国、一部インドなどに参入しています。北米や欧州への参入は成功例もあれば、失敗して撤退を余儀なくされるケースもあり、ハードルの高さがうかがえます。まずは肌の色や肌質の親和性が高いアジア市場で、日本企業の強みを活かした市場を開拓しているのが現状です。海外市場では、特に実店舗とバーチャルを融合した形のオムニチャネルが発展していくとみられます。
 
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この記事の監修者

阿部 雅文

阿部 雅文

コンサルタント

北海道大学法学部卒業。新卒でITベンチャー企業入社し、20代で新規事業の事業部長を経験。その後さらなる事業開発の経験を積むために、戦略コンサルティングファームにてスタートアップ企業からエンタープライズ企業のデジタルマーケティングや事業開発におけるコンサルティング業務に従事する。2021年5月にFabeeeにジョイン。DXコンサルタントとして大手メーカーや総合商社などを担当するほか、数多くのクライアントから指名を受け、各社の事業開発を支援中。多忙を極める中でも、丁寧で迅速な対応が顧客から高い評価を得ている。