【農業】他企業はビッグデータをどう活用してる?業種別に見るビッグデータの活用事例10選

2021.11.22

2022.02.02

DXのあるべき姿を考える


肉体労働のイメージが強い農業。しかし今、人の負担を減らすべく農業にもビッグデータが活用されています。

ICTの技術を活用した「スマート農業」にも注目が集まっており、農業とビッグデータとの結びつきの強さがうかがいしれます。そこで今回は、すでにビッグデータを活用している農業の事例にスポットを当ててご紹介。農業において、ビッグデータはどのような形で活用されているのでしょうか。

ビッグデータの存在が農業の生産性向上につながる

農業は他の業種とは違い、自然の影響を受けやすいという特徴があります。予測を立てて農作物の世話をしていても、豪雨や雨不足、寒波など、気候の影響から生産量を安定させること自体が非常に難しい業種です。

そんな農業の“弱点”を補うために活用され始めたのが、他でもないビッグデータ。気候の影響による生産量の不安定さの改善はもちろん、慢性的な人不足によるさまざまな課題に対しても、ビッグデータの力が有効に活用されています。

ビッグデータを活用することで、土壌や気象、作物などの因果関係が解明され、生産性が向上して収益性が確保できたり、いわゆる六次産業化のための戦略的な生産・販売が行えるようになったりと、ビッグデータの存在は農業に大きな力を与えます。農家が安定した収入を得るためには、生産性の向上と安定が不可欠。生産量の向上・安定を実現するためには、農業にもデータサイエンスの概念を持ち込む必要があるのです。

農業のデータ活用事例10選

では、実際にビッグデータを活用している農業の事例を確認していきましょう。

ビッグデータでコスト削減と収穫量アップを目指す/JFEエンジニアリング

産業機械の建設や鋼産業などに従事する
は、農業においてビッグデータを活用するためのサービスを開発しました。このサービスは「AIアグリフォース」と名づけられ、施設園芸利用者に提供されています。

AIアグリフォースは、ビッグデータの収集、可視化、分析、機械学習まで、ビッグデータ活用に必要なプロセスを一貫して行えるサービス。JFEエンジニアリングの子会社である農地所有適格法人 Jファームの温室制御ノウハウと組み合わせ、エネルギーコストの削減や収穫量のアップを実現しています。

ビッグデータを活用して収入を予測/ビビッドガーデン

“オンラインマルシェ”のサービス「食べチョク」の運営元であるビビッドガーデンでは、農業向けのIoTキット「Agri Palette(アグリパレット)」と連携し、データドリブンな農業の実現を目指すための取り組みを行っています。その取り組みの内容は、食べチョクにて高評価を得ている農家へAgri Paletteを導入し、顧客からの評価とその農作物の栽培データを統合して、事前に消費者からの評価を予測するというもの。

このシステムが構築されることによって、生産者は栽培状況から収入の予測が立てられるようになります。収穫が最終段階を迎えるまで収入の予測が立てられないという農家特有の課題を、ビッグデータを持って解決に導こうというのがこの取り組みの目的。ビッグデータは、生産者の生産量と収入に対する不安をも払拭してくれる存在となりつつあります。

ビッグデータを用いてスマート農業を研究/クボタ・トプコン

トラクターやコンバインなど農業用機械の開発・製造を手掛けるクボタは、“農業の工場化”を目指すトプコンとタッグを組み、スマート農業の分野についての研究を進めています。農業に従事する人の不足や世界的に食料に対する需要が高まっていることから、作業効率と生産性を向上・安定させるためのスマート農業に対して、期待が高まっています。

今まで経験や勘に頼ってきた農作業のデータをいかにして収集するのかや、ビッグデータを栽培管理にどう活かしていくのか。また、農業用車両の管理や自動化はどう進めていくのかというところを軸にして、両企業の知見と技術を組み合わせながら研究が進められています。

両企業によってビッグデータを用いた研究が進められることで、人手不足や農業の現場にある課題解決への期待が高まります。

宇宙ビッグデータを活用したブランド米が誕生/天地人・神明・笑農和

ビッグデータの力は、ブランド米の開発にまで及んでいます。宇宙ビッグデータの活用で知られるスタートアップ企業 天地人、お米の流通を手掛ける神明、スマート農業推進企業である笑農和の三社によって、宇宙ビッグデータを活用したブランド米「宇宙ビッグデータ米」の栽培をスタートしました。

地球上にいる人間の目では見つけられない情報を天地人が開発した「天地人コンパス」から取得・活用。収穫量アップが見込める圃場やより美味しいお米に育つ圃場を見つけ出し、笑農和のスマート水田サービス「paditch(パディッチ)」にて水温や水量の管理を行いながら宇宙ビッグデータ米を栽培します。

宇宙ビッグデータ米は、2021年中の販売が予定されているとのこと。お米にとって理想の場所、理想の水温・水量がビッグデータから解析できるようになると、お米を栽培する上での手間や負担を最小限に抑えながら安定した収穫を得ることも夢ではないのかもしれません。

スマート農業からスマートアグリシティの実現を目指す/PwC Japanグループ

農業ビジネスの支援などを行うPwC Japanグループでは、ビッグデータやAIなどを活用しながら生産者や自治体、大学・研究機関、新規農業参入などへの支援を行っています。PwC Japanグループは、農産物の生育に関する情報や農地の環境情報、農業者の労働情報などの“農業ビッグデータ”を活用し、「データ駆動型農業」と呼ばれるデータに基づきながら意思決定を行う農業を推進。

将来的には、スマート農業と社会とが結びついた「スマートアグリシティ」の実現を目指しており、ビッグデータやAI、IoTなどの力を使った持続可能な世界を作り出す一歩を踏み出しています。

農業の経営に特化したビッグデータ活用/農業利益創造研究所

農業経営研究のシンクタンクとして存在している農業利益創造研究所。この研究所では、会計ソフトメーカーのソリマチが提供している「農業会計ビッグデータ」を活用しています。

農業に特化した会計ソフトを開発・提供しているソリマチは、全国で10万件にも及ぶ農業会計データを取り扱い。ソリマチが収集した農業ビッグデータから、高い利益を上げている農家の特徴をAIによって統計分析し、利益を上げる手法について農業利益創造研究所から情報発信を行っています。

後継者不足などの課題を抱える日本の農業を回復させるためには、経営改善にも目を付けなければいけないと判断した農業利益創造研究所。ビッグデータを活用しながら農業の経営改善を行うことは、日本の農業の未来を変えるために必要な手段であると言えます。

作物ビッグデータでスマート農業を促進/NTT・農研機構

NTTと農研機構は、それぞれ異なる組織であることから共有できなかったビッグデータを活用し、スマート農業の促進に努めています。NTTと農研機構が活用したのは、日本の農業が長年培ってきた高度な栽培技術に関するデータ。スマート農業の促進や、将来に向けた農業に関する研究や開発の効率を上げるために、作物ビッグデータを活用しています。

一方、高度な栽培技術に関するデータは、機密情報に値するデリケートなデータです。農業従事者たちが築いてきた技術を流出させないためにも、ビッグデータの活用にだけ目を向けるのではなく、情報を守ることにも力を入れています。

「秘密計算技術」を用いることにより、作物ビッグデータは暗号化状態のまま解析が可能。計算の対象となる元のデータを、誰の目にも触れさせない状態で共有・保管・分析が行えるため、これまで積極的でなかった作物ビッグデータの活用も安心して行えるようになりました。

宇宙ビッグデータから耕作最適地を発見/天地人

宇宙ビッグデータを活用するJAXAのベンチャー企業 天地人。この企業では、地球上とは別の視点から物事を見ることができる宇宙ビッグデータから、キウイの耕作に最適な土地の発見に成功しています。

一般的にキウイは南半球で栽培される果物であり、ほとんどが輸入に頼っている状態です。そこで、キウイの生産地であるニュージーランドと似た環境を日本国内で探すべく、天地人では宇宙ビッグデータを活用。

この技術はキウイだけでなく、他の作物の耕作最適地を見つけるのにも有効な手段であることから、今後の活用が期待されています。

生産物の情報や気象データなどを生産者へ提供/IHI

航空宇宙エネルギー機器の開発・製造などを行うIHIは、自社で得たローカルアメダスからの気象データやGPSデータ、リモートセンシングで得た土地や生産物にまつわるデータを、農業の生産者へと提供。リモートセンシングを導入することで、離れた場所から農作物の状況を細かくチェックすることができるようになるため、ビッグデータからの情報と組み合わせることで、農作物の生育に合わせた作業の遂行が可能となりました。

複数種類のデータを組み合わせて分析することで、今まで見えなかった課題やヒントが明確になるため、的確に対処することができるようになります。結果、農作物の収穫量向上や品質の安定につながり、農業の効率アップに直結しています。

ビッグデータの活用によって植物の病気を診断/ペンシルベニア大学

アメリカ・ペンシルベニア大学では、物理学者と研究チームによって、植物の状態を識別できるような仕組みを開発しました。コンピューターに記憶させた5万を超える植物の健康状態のイメージから、調査対象となる植物の病気を判別。

人口知能に植物の病気の状態を学ばせるため、PlantVillageというアプリを活用し、そこへ寄せられる不健康な植物のイメージから専門家が診断を行い、その結果をデータとして蓄積していくという仕組みになっています。この仕組みが発展すれば、今後どこにいても植物の健康状態に合わせて迅速に対応することができるようになります。

ビッグデータをはじめ、AIの発展にも期待が込められている事例ではないでしょうか。

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まとめ

これからどんどん人手不足の課題が深刻になると思われる農業の世界。後継者不足などの問題直面を回避するためにも、ビッグデータを活用した効率の良い農業の広まりが急がれています。

ビッグデータは、人を助ける存在。企業の課題克服のためにも、利用しない手はありません。

この記事の監修者:冨塚辰

この記事の監修者:冨塚辰

Fabeee株式会社のデータサイエンティスト。 広告代理店でオン・オフ問わずプロモーション領域を中心にプロデューサー、制作ディレクターとして国内・外資、幅広い業界のクライアントを担当。
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